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東京高等裁判所 平成3年(ネ)1506号 判決

控訴人

甲野春子

乙山夏子

丙田次郎

右三名訴訟代理人弁護士

山田勘太郎

被控訴人

丙田一郎

丙田花子

丙田二郎

丁村秋子

丙田三郎

丙田冬子

右六名訴訟代理人弁護士

亀井忠夫

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  本訴請求について

(一)  別紙物件目録一ないし四記載の不動産について、被控訴人丙田一郎、同丙田二郎は四四分の八、同丙田花子は四四分の七、同丁村秋子、同丙田三郎、同丙田冬子はそれぞれ各四四分の三、控訴人らはそれぞれ各四四分の四ずつの共有であることを確認する。

(二)  別紙物件目録一及び二の各土地を同目録五及び六の土地にそれぞれ分割し、同目録五の土地を被控訴人丁村秋子、同丙田三郎、同丙田冬子の共有(共有持分各三分の一)とし、同目録六の土地及び同目録三、四の各建物を被控訴人丙田一郎、同丙田花子、同丙田二郎、控訴人ら三名の共有(共有持分は被控訴人丙田一郎、同丙田二郎につき各三五分の八、同丙田花子につき三五分の七、控訴人ら三名につき各三五分の四)とする。

2  反訴請求について

(一)  別紙物件目録一ないし三記載の不動産について、被控訴人丙田一郎、同丙田二郎は四四分の八、同丙田花子は四四分の七、同丁村秋子、同丙田三郎、同丙田冬子はそれぞれ各四四分の三、控訴人らはそれぞれ各四四分の四ずつの共有であることを確認する。

(二)  控訴人らのその余の反訴請求(当審で拡張した部分を含む。)を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審及び本訴、反訴を通じ、これを四分し、その一を被控訴人らの負担とし、その余を控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人らの本訴請求(ただし、控訴人及び被控訴人らについて3項で持分権が確認される部分を除く。)を棄却する。

3  当審で拡張した反訴請求の趣旨

被控訴人らは、別紙物件目録一ないし三記載の不動産について、控訴人、被控訴人ら並びに左記訴外人らが各々左の割合による持分権を有することを確認する。

① 訴外戊川B 四四分の一

② 訴外戊川C 四四分の一

③ 訴外戊川D 四四分の一

④ 訴外戊川E 四四分の一

⑤ 訴外丙田F 四四分の二

⑥ 訴外丙田G 一一〇分の一

⑦ 訴外丙田H 一一〇分の一

⑧ 訴外丙田I 一一〇分の一

⑨ 訴外花田J 一一〇分の一

⑩ 訴外月岡K 一一〇分の一

⑪ 訴外丙田L 一一分の一

⑫ 訴外田中M 一一分の一

⑬ 被控訴人丙田一郎 一一分の一

⑭ 被控訴人丙田花子 一一分の一

⑮ 被控訴人丙田二郎 一一分の一

⑯ 訴外丙田N 一一分の一

⑰ 控訴人甲野春子 一一分の一

⑱ 控訴人乙山夏子 一一分の一

⑲ 控訴人丙田次郎 一一分の一

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

本件控訴及び控訴人らの反訴請求中、当審で拡張した部分をいずれも棄却する。

三  当審での被控訴人らの共有物分割に関する訴えの追加的変更

1  主位的請求(当審で追加した請求)

(一) 別紙物件目録一及び二の各土地を同目録五及び六の土地にそれぞれ分割し、同目録五の土地を被控訴人ら六名の共有とし、同目録六の土地及び同目録三、四記載の建物を控訴人ら三名の共有とする。

(二) 控訴人ら三名は、右(一)と引き換えに、被控訴人丙田一郎、同丙田二郎に対し、それぞれ控訴人一人当たり金一六六九万四〇五六円ずつを、同丙田花子に対し控訴人一人当たり金一四六〇万七二九九円ずつを、同丁村秋子、同丙田三郎、同丙田冬子に対し、それぞれ控訴人一人当たり金六二六万〇二七一円ずつを支払え。

2  予備的請求(原審以来の請求)

別紙物件目録一ないし四記載の不動産について競売を命じ、その売得金を被控訴人丙田一郎、同丙田二郎は各三八分の八、同丙田花子は三八分の七、同丁村秋子、同丙田三郎、同丙田冬子は各三八分の三、控訴人ら三名は各三八分の二の割合で分割する。

四  右訴えの追加に対する控訴人らの答弁

1  被控訴人らが当審で追加した請求を却下する。

2  被控訴人らが当審で追加した請求を棄却する。

第二  当事者の主張

原判決事実第二記載のとおりである。ただし、以下のとおり付加訂正する。

一  原判決六枚目裏一行目の「継承取得」を「承継取得」と訂正する。

二  同七枚目裏九行目冒頭から同八枚目表二行目末尾までを以下のとおり訂正する。

「13 被控訴人丙田一郎は、別紙物件目録一、二の土地の一部である同目録五の土地上に、同目録七及び八記載の建物を所有し、そこに被控訴人丙田花子、太郎とともに居住してきたものであるところ、右建物はまだ耐用年数は十分あること、また、同目録一、二の土地の一部である同目録六の土地上には、同目録三及び四記載の建物が存在するところ、右建物は、控訴人丙田次郎が代表取締役である株式会社丙田太郎製作所(以下「会社」という。)の生産工場であること等からすれば、本件不動産の分割方法としては、同目録五の土地を被控訴人ら六名の共有とし、同目録六の土地と同目録三及び四の建物を控訴人ら三名の共有とする方が本件不動産を競売するよりも国家、社会経済上有益であるし、合理的である。

別紙物件目録一及び二の土地に対する被控訴人らの共有持分の合計は三八分の三二であり、控訴人らの共有持分の合計は三八分の六であるところ、鑑定の結果によれば、同目録六の土地価額は二億五四四六万一〇〇〇円であり、同目録五の土地価額は八八三七万六〇〇〇円であるので、被控訴人らが同目録五の土地を取得し、控訴人らが同目録六の土地を取得すると、公平上、次の金員の支払による調整が必要になる。

二億五四四六万一〇〇〇円×三八分の三二=二億一四二八万二九四七円

八八三七万七〇〇〇円×二八分の六=一三九五万四二六三円

二億一四二八万二九四七円―一三九五万四二六三円=二億〇〇三二万八六八四円

すなわち、控訴人ら三名は、被控訴人ら六名に対し、計二億〇〇三二万八六八四円を支払う必要があるところ、これを前記被控訴人らの共有持分に応じて按分すると、その取得金額は、

被控訴人丙田一郎、同丙田二郎

各五〇〇八万二一七一円

被控訴人丙田花子

四三八二万一八九九円

被控訴人丁村秋子、同丙田三郎、同丙田冬子

各一八七八万〇八一四円

となり、これを控訴人ら三名で三等分して負担すると、控訴人一人当たりの負担額は、

被控訴人丙田一郎、同丙田二郎に対し

各一六六九万四〇五六円

被控訴人丙田花子に対し

一四六〇万七二九九円

被控訴人丁村秋子、同丙田三郎、同丙田冬子に対し

各六二六万〇二七一円

となる(いずれも端数は円未満切り捨て)。

14 よって、被控訴人らは、控訴人らとの間において、本件不動産に対する共有持分が被控訴人丙田一郎、同丙田二郎は各三八分の八、同丙田花子は三八分の七、同丁村秋子、同丙田三郎、同丙田冬子は各三八分の三、控訴人ら三名は各三八分の二であることの確認を求めるとともに、民法二五八条に基づき、主位的には前記13記載の方法による本件不動産の分割を、予備的には本件不動産を競売に付し、その売得金を被控訴人らと控訴人らとの右持分に応じて分割する旨の裁判を求める」。

三  同八枚目表一〇行目を以下のとおり訂正する。

「7 同7の事実中、別紙物件目録一ないし三記載の不動産が太郎の所有であったことは認めるが、同目録四記載の不動産は、会社の所有であり、太郎の所有ではない。また、各相続人の相続分は後記控訴人らの主張のとおり、いずれも一一分の一である。」

四  同八枚目裏四行目と五行目の間に以下のとおり付加する。

「13 同13の主張は争う。」

五  同一〇枚目裏一行目から同四行目末尾までを以下のとおり訂正する。

「4 前記のように、戊川Aらのした持分の贈与は無効であり、本件共有物の分割は共同相続人間の遺産分割となるので、右分割に関する裁判権は家庭裁判所の専属であるうえ、本訴の当事者以外にも存在する共同相続人を除外して分割ができないことも明らかであるから、民法二五八条に基づく本件共有物分割請求は不適法として却下されるべきである。また、仮に、右分割請求が認められる余地があるとしても、本件については未だ同条一項が要求する共有物分割についての協議がされていないから、右請求は棄却されるべきである。

5 別紙物件目録一ないし三記載の不動産は、太郎の生前、同人が会社に貸していたものであり、本件共有物分割請求は太郎の意思に反すること、なお、太郎の相続人である被控訴人らは右貸借義務をも承継したものであること、また、本件は太郎の遺産分割事件であるから、本来の相続人間において、その分割について協議、調停又は審判がされなければならず、それによってのみ実情に適した解決方法が考えられるのに、被控訴人丙田一郎は右遺産に対する一部相続人の相続持分を第三者に流出させることによって、本来の相続人間における右遺産分割についての協議や調停等を不能にしたものであることなどからすれば、被控訴人らの本件共有物分割請求は権利の濫用又は信義則に反するものとして許されない。」

六  同一〇枚目裏九行目全部を以下のとおり訂正する。

「4 同4、5の事実は否認し、その主張は争う。なお、別紙物件目録一ないし三記載の不動産については、太郎の死後、法定相続分に従った相続登記がされているところ、控訴人らは右相続登記を知りながら、なんら異議も述べず一〇年以上経過しているのであるから、本件では法定相続分に従い、遺産分割協議がされたとみるべきである。また、被控訴人らは控訴人らを相手方として、昭和五九年二月一七日、静岡簡易裁判所に対し、共有物分割の調停を申し立てたが、控訴人らは紛争解決の熱意も誠意もなく、昭和六〇年一二月二〇日、不調となった。」

七  同一二枚目表九行目冒頭から同裏一一行目末尾までを以下のとおり訂正する。

「3 したがって、太郎の相続人は、戊川Aら八名の嫡出子と被控訴人甲野春子ら三名の非嫡出子となるところ、非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の二分の一と定めた民法九〇〇条四項但書前段の規定は、人の出生という社会的身分による不合理な差別であり、憲法一四条に違反するから無効であり、右相続人の各相続分はいずれも一一分の一である。」

八  同一三枚目表四行目の「三八分の一」を「四四分の一」と、同六行目の「一九分の一」を「二二分の一」と、同八行目の「九五分の一」を「一一〇分の一」と、それぞれ訂正する。

九  同一四枚目表一〇行目全部を次のとおり訂正する。

「3 同3の主張は争う。民法九〇〇条四号但書前段の規定は、嫡出子と非嫡出子との間に相続分の差を設けているが、これは、一夫一妻制の婚姻制度の尊重に基づく合理的な差別であり、憲法一四条の平等の理念に反するものではない。

仮に、民法の同条文が憲法に違反するとしても、控訴人らの右憲法違反の主張は、時機に遅れた攻撃防御方法として却下されるべきである。」

第三  証拠

原審及び当審証拠目録記載のとおりである。

理由

第一  本訴請求について

一  請求原因1ないし6の事実は当事者間に争いがない。

二  太郎の相続財産について

1  別紙物件目録一ないし三記載の各不動産がいずれも太郎の所有であったことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三五号証、第四四号証、第四五号証の一ないし九及び弁論の全趣旨によれば、同目録四記載の建物は未登記であるが、同目録一ないし三の各不動産とともに、固定資産課税台帳に被控訴人丙田一郎外八名の共有財産として登載され、同被控訴人がその固定資産税を負担してきたものであり、太郎の生前は太郎の資産として同台帳に登載されていたものと推認されること、なお、弁論の全趣旨によれば、昭和五九年に提起された本件共有物分割の調停においては同目録四記載の建物が太郎の相続財産であることは争いがなかったとみられるし、昭和六三年の本訴提起後も、原審の最終段階である平成二年五月に至るまで、控訴人らは右建物が太郎の相続財産であることを争わないのみならず、右建物を相続財産に含めて共有権確認等の反訴を提起していたものであることなどからすれば、右建物についても、同目録一ないし三記載の不動産と同様、太郎の相続財産であると認めるのが相当である。

2  なお、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる(第五一号証の一、二については原本の存在及び成立とも)乙第二七号証の一、二、第五一号証の一、二によれば、昭和三一年以降、車庫の建物が会社の固定資産として会社の帳簿に記載されていることが認められるが、右車庫が別紙物件目録四記載の建物と同一であるか否かも不明であり(床面積が相違している)、仮に同一であるとしても、右建物がいかなる経緯で会社の帳簿に記載されるようになったのかも不明であって(なお、原審での控訴人丙田次郎の供述中には、右建物は太郎が四国から運転手を呼ぶために建てたものであり、建築費も会社の経費で払ったものである旨の供述部分があるが、それを裏付ける確かな証拠はない。)、この点も前記認定を左右するに足るものではない。

三  本件不動産の相続及び共有持分の贈与について

1  前記当事者間に争いがない事実に加え、成立に争いのない甲第一ないし第三号証、第九号証の二、第一二号証の二、第一四号証の二、第一五号証の二、第一七号証、乙第一、第二号証、原審での被控訴人丙田一郎本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第九号証の一、第一〇、第一一号証、第一二号証の一、第一三号証、第一四号証の一、第一五号証の一、第一六号証、第一九ないし第二二号証、原審証人丙田Lの証言、原審での被控訴人丙田一郎、同丙田二郎各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一) 太郎は昭和四九年一月八日に死亡したが、その後、被控訴人丙田一郎は、太郎と丙田月子の子供である丙田O、丙田Lらと太郎の遺産相続についての話し合いを進めていた。太郎と丙田月子との間には、右両名のほか、戊川A、田中Mの四名がいたが(以下、この四名を「東京組」という。)、その遺産相続については、丙田Oと丙田Lがまとめ役になっており、また、控訴人らと被控訴人らの間では、被控訴人丙田一郎が交渉の窓口になっていた。なお、太郎の死後まもなく、会社の経営権をめぐる被控訴人丙田一郎と控訴人丙田次郎との争いが顕在化し、昭和四九年四月、被控訴人丙田一郎は、会社と控訴人丙田次郎を相手方として、当時、会社の代表取締役であった同控訴人の職務執行停止の仮処分を申請するなどしていたが、太郎の相続問題については、本件不動産は会社の敷地及びその工場として利用されていたこともあり、同被控訴人と同控訴人とは、東京組を除外して、実際に会社の運営に関わっている控訴人らと被控訴人らのみで、本件不動産を相続するとの考えで一致していた。

(二) 被控訴人丙田一郎は、丙田Oらと交渉の結果、本件不動産について東京組の相続する共有持分を請求原因8記載のとおり、被控訴人ら五名及び丙田N、鈴木Pが譲り受けることで話をまとめ、昭和四九年一二月、右共有持分(いずれも一九分の一)の譲渡の対価として、一人につき金二五万円を支払った。丙田Oら東京組が右共有持分の譲渡に応ずることにしたのは、被控訴人丙田一郎とその妻である同丙田花子が、太郎を親身になって面倒をみていたことと、本件不動産は、いずれも静岡にある会社の敷地及びその工場(一部は被控訴人丙田一郎の居宅の敷地)であり、控訴人ら及び被控訴人らが太郎の事業を継承していくうえで必要不可欠な物件であったことによる。なお、被控訴人丙田一郎、同丙田花子、同丙田二郎、丙田Nの四名は、昭和四七年一二月四日に太郎と養子縁組をしていたものであるが、当時、控訴人丙田次郎らはその事実を知らなかった。その後、控訴人らは、昭和六三年に右養子縁組の無効確認請求の訴えを起こしているが、平成二年五月二八日請求棄却の判決がされ、同判決は確定している。

(三) その後、昭和五二年八月、東京組の代理人であった丙田O及び丙田Lと被控訴人ら及び丙田N、鈴木Pとの代理人(兼本人)であった被控訴人丙田一郎との間で、請求原因8記載の内容の各贈与契約書が作成され、同年九月九日、本件不動産につき、一旦、法定相続分に従った相続登記がされたのち、右各贈与の登記がされた。右相続登記は、被控訴人丙田一郎が保存行為として単独でしたものである。控訴人丙田次郎は、東京組との遺産相続に関する交渉を被控訴人丙田一郎に任せていたものの、同被控訴人らが養子縁組をしていることは知らなかったし、その後、東京組が同控訴人らを除外し、同被控訴人らについてのみ、前記のような持分の贈与をしたことや、相続登記をしたことも知らなかった。

以上の事実が認められる。

2  右1認定の事実からすれば、本件不動産についての東京組の共有持分は、被控訴人ら主張のとおり、すべて被控訴人ら及び鈴木P、丙田Nに贈与されていることが明らかである。なお、太郎の相続人は、太郎の嫡出子である東京組の四人と、非嫡出子である控訴人ら三名及び養子である被控訴人丙田一郎、同丙田花子、同丙田二郎、丙田Nの計一一名であるところ、民法九〇〇条四号但書前段の規定が違憲無効と解されることは後記第三記載のとおりであるので、その法定相続分はいずれも一一分の一になり、東京組の有していた共有持分も贈与契約書に記載された一九分の二ではなく二二分の二ということになるが、いずれにせよ、当時、東京組は相続により取得したその共有持分全部を被控訴人丙田一郎らに贈与する意思であったとみられるから、その持分割合が若干減少したからといってその贈与の効果に影響を及ぼさないことはいうまでもない。

したがって、亡戊川Aは被控訴人丙田一郎と同丙田花子に、亡丙田O被控訴人丙田三郎と同丙田冬子に、丙田Lは被控訴人丁村秋子と鈴木Pに、田中Mは被控訴人丙田二郎と丙田Nに、いずれもその有していた本件不動産の共有持分二二分の二を、二二分の一宛贈与したことになり、その時点での本件不動産の共有割合は、被控訴人丙田一郎、同丙田花子、同丙田二郎、丙田Nが各四四分の六、被控訴人丙田三郎、同丙田冬子、同丁村秋子、同鈴木Pが各四四分の二、控訴人ら三名は各四四分の四ということになる。

四  錯誤の主張について

1  控訴人らは、前記贈与は、被控訴人丙田一郎が丙田Lに対し、太郎には多額の負債があるので、同人の遺産相続はこれを放棄した方が得策である旨を説いたため、これを信じた丙田Lが同被控訴人の持参した書類に署名捺印してされたものであるところ、真実は太郎には生前の負債は存在しなかったものであるから、右贈与は錯誤により無効である旨主張し、原審証人丙田Lの証言中には右主張に沿う供述部分がある。

2  しかし、前記認定のように、被控訴人丙田一郎との折衝に当たっていたのは丙田Oと丙田Lの両名であるし、その点はさておいても、原審での丙田Lの証言中には、右贈与は、被控訴人丙田一郎及びその妻である同丙田花子が、右丙田Lらの父である太郎を親身になって面倒をみていたので、贈与するつもりになった旨述べている部分もあるうえ、この点に関する原審での被控訴人丙田一郎及び被控訴人丙田二郎各本人尋問の結果に照らせば、東京組が右贈与をするに至った経緯は前記三1(二)記載のようなものと認めるのが相当であり、前記控訴人らの主張に沿う原審証人丙田Lの供述部分はこれを採用しがたく、他に右控訴人らの主張を認めるに足る証拠はない。

五  鈴木P、丙田Nらの持分贈与について

1  前掲甲第一ないし第三号証、原審での被控訴人丙田一郎、同丙田二郎各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、鈴木Pは昭和五三年一二月一三日その有していた本件不動産の共有持分(前記のとおり四四分の二)を被控訴人丙田一郎と同丙田二郎に、丙田Nは昭和五五年七月六日その有してした本件不動産の共有持分(前記のとおり四四分の六)を被控訴人ら六名に、それぞれ均等な割合で贈与した事実を認めることができる。なお、成立に争いのない甲第三六号証中には丙田Nは右贈与の事実を知らなかったかのような供述部分があるが、原審での被控訴人丙田二郎本人尋問の結果に照らし、採用しがたい。

2  控訴人らは、丙田Lの鈴木Pに対する贈与及び田中Mの丙田Nに対する持分贈与が無効であるから、鈴木Pあるいは丙田Nから被控訴人らへの贈与も無効である無主張するが、右丙田Lらの贈与が無効であるとは認めがたいことは前記のとおりであるから、右主張も理由がない。

六  本件不動産の共有持分の割合について

したがって、本件不動産についての共有者は、被控訴人ら六名と控訴人ら三名となり、その持分割合は、被控訴人丙田一郎、同丙田二郎が各四四分の八、同丙田花子が四四分の七、同丁村秋子、同丙田三郎、同丙田冬子が各四四分の三、控訴人らが各四四分の四であると認められる。

七  本件共有物分割請求の適否について

1  控訴人らは、前記各贈与が無効であることを理由に、本件共有物分割請求は共同相続人間の遺産分割であり、家庭裁判所の専属事項である旨主張するが、その前提が採用できないことは前記のとおりである。また、控訴人らは、本件については未だ民法二五八条一項が要求する共有物分割についての協議がされていない旨主張するが、前記二1のとおり、本件では、共有物分割請求に先立ち、調停による協議の場も設けられていることが明らかであるから、右主張も理由がない。

2  もっとも、前記三1の認定事実からすれば、本件不動産は未だ遺産分割手続が未了であるといわざるを得ないが、本件不動産についての東京組の共有持分は前記のような経緯で、太郎の共同相続人以外の第三者である被控訴人丁村秋子、同丙田三郎、同丙田冬子に逸出しているのであるから、少なくとも右三名の関係では、本件不動産の共有関係解消のためにとるべき手段は共有物分割訴訟であることは明らかであり、本件共有物分割訴訟は適法であるといわざるを得ない(このように一部が遺産から逸出した場合の分割方法については後記のとおり)。なお、被控訴人らは、控訴人らは別紙物件目録一ないし三記載の不動産について、太郎の死後、法定相続分に従った相続登記がされていることを知りながら、なんら異議も述べず一〇年以上も経過しているのであるから、本件では法定相続分に従い、遺産分割協議がされたとみるべきであると主張するが、原審における控訴人丙田次郎本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、控訴人らが右相続登記を知ったのは、被控訴人らが本件不動産の分割を求める調停の申立てをした昭和五九年以降であると認めるのが相当であり、その以前に控訴人らが右登記の存在を知っていたとは認めがたいから、右主張は採用しがたいし、ほかに本件で黙示的な遺産分割協議が成立したことを認めるに足る証拠はない。

3  控訴人らは、本件共有物分割請求が権利の濫用に当たり、あるいは信義則に反して許されない旨主張するところ、原審での被控訴人丙田一郎、控訴人丙田次郎各本人尋問の結果によれば、太郎の死後、控訴人らと被控訴人らとの間で会社の経営権等をめぐり種々の紛争が発生するようになり、相互に円満な話し合いをすることが困難な状況になっていること、なお、本件共有物分割請求について、被控訴人らは控訴人らを相手に、まず静岡簡易裁判所に共有物分割の調停を申し立てたが、それが不調に終わったため、本訴に至っていることなどからすれば、控訴人ら主張の諸事情を考慮しても、本件共有物分割請求が権利の濫用に当たるとか信義則に反するものとはいえない。

八  本件不動産の分割方法について

1  そこで、本件不動産の分割方法について検討するに、共同相続人以外の第三者がその取得した共有持分権に基づいて提起した共有物分割訴訟は、当該不動産を第三者に対する分与部分と持分譲渡人を除いた他の共同相続人に対する分与部分とに分割することを目的とするもので七日時点での別紙物件目録一及び二記載の各土地の評価の合計額は三億五八一一万五〇〇〇円であるところ、同目録五記載の土地の評価は八八三七万六〇〇〇円であり(同目録六記載の土地の評価は二億五四四六万一〇〇〇円)、被控訴人丁村秋子ら三名の本件不動産についての共有持分が計四四分の九であることに照らすと、右三名に対する分与割合がやや大きいように考えられないでもないが、同目録五記載の土地は被控訴人丙田一郎の居宅の敷地として使用されているものであり、現実的な利用価値はほとんどないこと、これに対し、同目録六の土地はその上に会社の工場等が存在するとはいえ、右建物は相当老朽化しており(原審での被控訴人丙田一郎本人尋問の結果及び鑑定書添付の写真)、近い時期に工場の取り壊し、移転等により、更地としての利用も見込まれること、仮に、工場が現在のまま利用されるとしても、その利用につき会社と賃貸借契約を締結するなどしてそこから収益を挙げることも可能であると考えられることなどからすれば、同目録五の土地は同目録六に比べ、その評価額は鑑定の結果より少なくとも一五パーセント以上は下回るものと認めるのが相当であり、被控訴人丁村秋子らの取得分が、金銭による調整、清算を必要とするほど過大であるとはいえないというべきである。

第二  反訴請求について

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  しかしなから、請求原因2の持分贈与が要素の錯誤により無効である旨の控訴人らの主張が採用できないこと、また、同6、7の持分贈与が無効である旨の控訴人らの主張も採用しがたいことは前記のとおりである。

三  したがって、別紙物件目録一ないし三記載の不動産についての共有者は被控訴人ら六名と控訴人ら三名であり、その持分割合は、被控訴人丙田一郎、同丙田二郎につき各四四分の八、同丙田花子につき四四分の七、同丁村秋子、同丙田三郎、同丙田冬子につき各四四分の三、控訴人らにつき各四四分の四であると認められる。

第三 民法九〇〇条四号但書前段の規定の合憲性について

当裁判所は、民法九〇〇条四号但書前段の規定は、憲法一四条一項の規定に違反し、無効であると解する。その理由は次のとおりである。

一 民法九〇〇条四号但書前段の規定(以下「本件条項」という。)は、嫡出子でない子(以下「非嫡出子」という。)の相続分を嫡出子の二分の一とするものであるところ、嫡出子か嫡出子でないかは、本人の父母が法律上の婚姻関係にあるかどうか、すなわち、本人を懐胎した母が妻たる身分を取得した後に出生したか否かによって決定される事柄であるから、子の立場からみれば、正に出生によって決定される一種の地位又は身分であり、このような事由に基づく差別が、憲法一四条一項後段に該当することは明らかである。

二 憲法一四条一項の法の下における平等の要請は、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、差別的な取り扱いをすることを禁止する趣旨と解すべきであるから、右のような差別的な取り扱いが果たして合理的な根拠に基づくものであるか否かが問題となる。

1 本件条項の立法目的は、非嫡出子の相続分を法律上の婚姻関係にある男女の間に出生した嫡出子の相続分の二分の一とすることによって、法律上の婚姻によって成立した家族の利益を保護し、もって正当な婚姻を奨励尊重するとの趣旨に出たものと解される。

民法は、婚姻は戸籍法の定めるところによりこれを届け出ることによってその効力を生ずるものとし、このようにして成立した婚姻関係に種々の法律上の保護を与えるとともに、このような婚姻関係を基礎として親子関係や相続関係を定めており、このような法制度は憲法二四条の趣旨にも沿うものである。

本件条項はこのような家族に関する法制の一環として定められたものであり、非嫡出子を嫡出子に比し、相続分において差別的に取り扱うものではあるが、立法の目的が必ずしも合理性を欠くということはできないと考えられる。

2 そこで、本件条項が右のような立法目的との関連で合理的なものといえるか否かについて検討するに、本件条項が非嫡出子の相続分を嫡出子のそれの二分の一とすることにより、法律上の婚姻によって成立した家族の利益を一定限度で尊重し、保護していることは確かであるが、本件条項があるからといって、このことのためにその父母が婚姻外の関係を避け、法律上の婚姻手続を履践するようになるとは考えられないのであるから、本件条項は正当な婚姻を奨励するという立法目的を達成する手段としては必ずしも実効性があるとは考えられない。

また、本件条項によって保護されている家族の利益についても、相続人が配偶者と子である場合、法律上の妻の相続分は子が嫡出子か非嫡出子かにかかわらず二分の一であるから、本件条項は、法律上の妻の保護には必ずしも役立たないことが明らかである。もっとも、子が未だ若年であるなど、母親と生計を同一にする場合には、本件条項によって、法律上の妻の利益が事実上保護される結果となる場合もあると考えられるが、そのような場合がありうるからといって、本件条項が直接妻の利益の保護を目的としているといえるものではない。

3 また、本件条項には、以下のような不合理な面があることが指摘される。すなわち、右規定は、一律に非嫡出子の相続分を嫡出子のそれの二分の一としているから、たとえば、母が法律婚により嫡出子をもうけて離婚した後、再婚し、子をもうけた場合に、再婚が事実上の婚姻にすぎなかったときは、母の相続に関しても嫡出子と非嫡出子が差別される結果となり、極めて不合理な結果をもたらすこととなる。

被相続人の遺産の公平適切な分配という観点からしても、嫡出子が常に遺産に対する寄与が大きいとは限らないのであるから、その相続分を寄与の度合いにかかわらず、常に嫡出子の二分の一とすることは不合理であり、この点は、相続分は一応等しいものとした上で、寄与分の制度の活用によって、現実の寄与、貢献に応じた分配を図る方が妥当な結果をもたらすことが明らかである(本件条項の立案当時は寄与分の制度は設けられていなかったものであるが、現時点で本件条項の合理性を検討するに当たっては、寄与分の制度の創設によって、各相続人の遺産形成に対する寄与、貢献に応じた遺産の分配が可能になったという事情は無視できないと考えられる。)。

さらに、遺産によって残された未成熟子を扶養するという観点からみても、嫡出子の方が一般的に非嫡出子よりも扶養の必要性が高いと言えないこと、また、相続制度の対極にある父母に対する扶養義務については非嫡出子と嫡出子との間に差異はないことなども本件条項の合理性を検討する上で考慮されなければならない。

4 因みに、本件は、被相続人とその内縁の妻及び非嫡出子(養子縁組をした被控訴人丙田一郎を含む。)によって、長年にわたり家族としての共同生活体が構成され、遺産もその生活体の営みの中で形成されてきたものであり、また、同被控訴人及びその妻である被控訴人丙田花子が被相続人に孝養を尽くし、扶養義務を全うした場合であって、それでもなお、被相続人死亡の五〇年以上も前から被相続人と事実上縁を断ち、遠隔の地で被相続人の法律上の妻(被相続人より先に死亡)とのみの生活をしてきた嫡出子が非嫡出子の二倍の相続分を有するとすることの合理性を論証しがたい好個の事例であるというべきである。

三 もっとも、非嫡出子の相続分を含め、相続制度をどのように定めるかは夫婦財産制や扶養制度にも深く関連する事柄であり、家族に関する法制度全体の中で考えられなければならない問題であって、立法府の裁量の余地が大きいことは確かであるが、その中の規定が法制度として著しく不合理である場合にはその裁量の範囲を逸脱したものとしてその効力が否定されなければならないと考えられる。

本件条項は、前記のように立法目的はそれなりの合理性を持つものであるにしても、法律上の婚姻の奨励という目的を達成する手段としては実効性に乏しいものであるし、法律上の婚姻制度によって最も保護されなければならない妻の利益を直接には保護するものではないこと、また、規定の仕方が極めて広いため、母の相続に関しても嫡出子と非嫡出子が差別されるなど明らかに不合理な結果をもたらす場合もあること、さらに、遺産の公平適切な分配や、遺産による未成熟子の扶養という観点からみてもその合理性を肯定することは困難であること等に加え、出生による差別は、本人の意思や努力によってはいかんともしがたい事由による差別であり、憲法一四条一項の趣旨からしてこのような事由による差別は極力回避されなければならないと考えられること等からすれば、本件条項は、立法府の裁量の問題として看過しえない非合理的な規定といわざるを得ず、憲法一四条一項に違反するものであり、無効であるというほかない。なお、本件条項はその立案の当初からその適否について議論があったものであり、昭和五四年七月一七日付けで法務省民事局参事官室から公表された相続に関する民法改正要綱試案の二においては、非嫡出子の相続分の平等化が図られたこと(もっとも、当時の世論調査の結果等にかんがみ、時期尚早としてこの部分の改正は見送られた。)、また、平成六年七月に法制審議会民法部会身分法小委員会がまとめた民法改正要綱試案においても、再度、本件条項の廃止が盛り込まれていることなどは、間接的ながら、本件条項が必ずしも十分な合理性を持たないことの一つの裏付けとなるものである。

四 以上のとおり、本件条項の定める差別的取り扱いは、合理的な根拠に基づくものとはいいがたいから、憲法一四条一項の規定に違反するというべきである。

第四  よって、被控訴人らの共有権確認請求及び被控訴人らの反訴請求(当審で拡張した部分を含む。)は、前記第一の六及び第二の三記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、本件不動産については、前記第一の八のとおり分割することとする。

したがって、本件控訴に基づき、原判決を主文のとおり変更し、また、控訴人らの当審で拡張した反訴請求中その余の請求はいずれも理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、同法九五条、九三条、九二条及び八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 髙橋欣一 裁判官 矢崎秀一 裁判官 及川憲夫)

別紙物件目録

一 静岡市大和二丁目六番の六

宅地 509.09平方メートル

二 静岡市大和二丁目七番の八

宅地 509.09平方メートル

三 静岡市大和二丁目六番地の六、七番地の八

家屋番号 二一番の三

木造スレート葺平家建工場

床面積 152.06平方メートル

附属建物一

木造スレート葺平家建工場

床面積 88.00平方メートル

附属建物二

木造ルーフイング葺平家建工場

床面積 148.76平方メートル

附属建物三

木造ルーフイング葺平家建便所

床面積 1.65平方メートル

四 静岡市大和二丁目六番の七(未登記)

木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建居宅・車庫

床面積 一階

13.23平方メートル

二階

13.23平方メートル

五 右一の土地のうち、別紙図面ニ、ホ、ヘ、ト、ニの各点を順次直線で結んだ範囲の土地215.55平方メートル

六 右一、二の土地のうち、別紙図面イ、ロ、ハ、ニ、ト、ヘ、イの各点を順次直線で結んだ範囲の土地806.02平方メートル

七 静岡市大和二丁目六番地六

家屋番号 六番六の一

木造瓦葺二階建居宅

床面積 一階

107.20平方メートル

二階

33.12平方メートル

八 静岡市大和二丁目四番三〇号

軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建倉庫

床面積 9.35平方メートル

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